肉塾第5回課題発表。

 

課題はジビーフのバラ肉。

事前に送られてきた500gの塊肉を、設定したテーマに沿って調理し、

その料理の狙いを発表し、8人の塾生が試食し合い、そして評価される。

ジビーフの特徴を知り、ジビーフの良さを引き出した料理であり、

加えて肉塾で自分が何を学んだのか、そのことを踏まえて一皿を作り上げることになる。

 

 

バラ肉と聞いた時に一番最初に思いついたのはジビーフの個性を生かしつつどう柔らかくするか。

教科書的にはバラという部位は煮込みや薄くスライスする等どう柔らかく提供できるかが勝負。

ただなぜ課題がバラ肉の塊だったかを考える。

しかもジビーフ。

その調理法でジビーフの個性は消えてしまわないか?

塊を細切れにしたり小さくすることは部位の特徴を捨てないか。

柔らかくすることと美味しくすることはイコールではないのでは?

ジビーフのことを考えて自問自答の日々

「あなたは何を学んだ?」

「あなたの役割は?」

「自分がジビーフだったら、どう伝えて欲しい?」

 

 

私が様似でジビーフを見つめながら感じたこと、

強い赤身肉に感じる水の要素と草の香り、旨味、すじを噛み切り咀嚼することで感じる野性味、

それを素直に知ってもらいたいのではないだろうか?

どれほど他の牛との違いがあるのか、

なぜこれほどまでにピュアな味わいなのか、

ストーリーを知って欲しい。

ジビーフの育った大地を知って欲しい。

空から雨が降り、雨は沢になってジビーフが飲む水になる。

水は大地に染み込み、大地はジビーフが食べる草を育て、豊かな農作物を育む。

テーマは「天空から見たジビーフと大地」

 

 

テーマが決まってからは今度は調理法で悩む日々。

硬い肉を柔らかくする調理法はたくさん考えつくが、

硬い肉を柔らかくし過ぎないで、しかも美味しくする調理法。

難しいがチャレンジしてみたい。

そんな思いから試作用のバラ肉を求めて滋賀に向かう。

 

ジビーフの美味しい肉汁を閉じ込めたいと思い、低温でたんぱく質を含む水分を筋繊維の変性が起こるより少し低い温度で中で固定させる。

低温調理で水が少し抜けるすることを考慮して、

抜ける水分を補うのと旨味をより増すために少しの塩と様似の特産でありジビーフとの旨味の相乗効果のある昆布、塩、白ワインでマリネして一晩。

それから低温での火入れ、ただ湯煎では表面だけ火が入り過ぎてしまうので、

オイルを使いたんぱく質の固まるぎりぎりの温度帯で2時間コンフィにする。

この温度ではコラーゲンは解けないので歯を立てて噛み砕く状態になる。

それを提供前に表面を香ばしく、中を温かく香りが立つように仕上げる。

でも本当にこの調理法で良いのか?

もっと違う方法?

カットの仕方は?

何度も何度も自問自答する。

ジビーフは全て使い切りたい。ジビーフを噛み締めてその香りや旨味の余韻と大地の豊かな恵みを合わせて感じて欲しい。

剥がしたすじは予め炊いておき昆布の出汁と合わせて煮詰めら塩だけで仕上げ山椒の香りを軽くつけて煮こごりに。

コラーゲンのむっちりとした食感を楽しんで欲しい。

筋肉と脂の部分を煮込んだものは相性の良い小豆と合わせる。

ドライハーブを少し加えることで、小豆のこもった香りを少し和らげ、

ジビーフのこっくりとした旨味が感じられるように。

ビーツは十勝平野が日本の砂糖のほとんどを占める砂糖大根が穫れる土地であることもヒントにサワークリームとフェンネルでまとめる。

口直しの軽い渋みの菊芋のピクルス。

 

本番用のジビーフが届いた。

試作で使わせて頂いていたものより、中央部分のすじが厚くて硬い。

2日前になっても迷う。前日もまた迷う。

迷宮に入り込んでしまったまま当日を迎える。

 

 

料理は結果論。

いくら考え抜いても経過は関係ない。

出来上がった皿が全て。

自分では納得がいかず点数などつけられない。

調理の技術的なことや一皿に込めた思いも舌足らずで上手く話せずほとほと嫌になる。

終わってからは反省の日々。

やり残した感に苛まれ、常にやり直したい衝動に駆られる。

課題発表の前も考え抜いたつもりでいたが、

後の方がもっとジビーフのことを考えている。

考え過ぎてなどいなかった、単に中途半端だったのだと改めて思う。

 

課題発表で塾生の方々の料理からも多くの刺激を受け、勉強させて頂いた。

それぞれが考え抜いて作り上げた料理からはどれも学ぶべきことが多く、

自分の調理技術の未熟さ、そしてどんなに伝えたいストーリーがあっても、

まず「美味しい」がなければ何も伝わらないこと、

さらに思いがあっても人に理解してもらえるように話せなければ伝えたことにはならないのだということ、その他あげればきりがないほど。

反省は次に繋げるためにするもの。

ここから這い上がるしかない。

正しい肉のことを伝えていきたいと思い、肉に特化した料理教室に変えてから一年が経ち、まだまだ成長出来ていない。

身の程知らずだと思う。ただ、決意した日のことを思い出す。

伝えることを止めることは出来ない。

悶々としたマイナスの思考回路に徐々に光が差込みプラスの思考回路に切り替わり始める。

肉塾で学ぶ前の私ならいつまで経っても沈みっぱなしだっただろう。

 

 

惜しみなく知識と技術を塾生に与えて下さる新保さん、この素晴らしい講座を企画下さった貴さん、いつもサポート下さる愛ちゃん、様似で私に大きな支えを下さった奈緒子さん、滋賀研修でお世話になった了平店長やサカエヤのみなさん、そしてこれまで一緒に頑張ってきた塾生のみなさん、この肉塾でかけがえのないものを頂いた。

 

そして、この御恩をどういう形で還元していくべきかという大きな課題を頂いた。

学び、その学びを咀嚼して私を通してどう伝えるか。

自分の持つ使命を考えていきたい。今回関わらせて頂いた全てのみなさまに感謝の気持ちを伝えたい。